別名をエトロ柄といわれるほど有名になったあの模様は、15世紀ごろから、インドのカシミール地方でショールに織られていた文様だ。日本の勾玉にも通じている、生命の樹ブータをデザイン化したものだという。それが18世紀にヨーロッパで大流行したとき、機械織りの発達により、イギリスで真似され、その上地の名をとってペイズリー柄として普及、また安価なプリント物も出回って、本来のカシミール文様とはかなり趣の異なるものとなってしまった。祖母の好んでいた本物の柄を、アンティークでなく、新しい生地でなんとかしたいと考えたのが、ジーモ・エトロである。ミラノにあった織物工場の跡継ぎだった彼は、1968年、デザイナーたちに質のよい布地を提供するための会社をおこすかたわら、このカシミール文様の再現に力を注ぐ。そのための特殊な織機を開発して、ついに文様を織りだすのに成功し、1975年、生地メーカーのほかに室内装飾用の会社をはじめる。これが現在の「ETRO」(エトロ)ブランドである。さらにこの布地に塩化ビニル加工を施した素材でバッグ製造に乗り出し、それが今日のエトロ人気の礎となった。1メートルを織るのに3時間はかかるといわれる文様は、落ち着いたアースカラーの素朴な味わいの中に、華やかさや神秘性をうかがわせ、使う人の心をファイーストの歴史の彼方へといざなってくれる。