美容クリニックの懲りない面々

2011.04.20

私と同行の看護師さんの交通費や宿泊費、クリニックを借り受ける諸経費その他、治療費は通常の何倍にもなってしまうだろう。でも、彼にはそんなことおかまいなしだ。福岡入りした私たちは、彼と顔を合わせるやいなや、すっかりウィリアムのバスに乗せられてしまった。「まずはみんなで食事でも」と彼が言い出し、私は早速仕事の準備にかかりたかったが、そんなことをいえば「おまえはまたジャパニーズをやっているの?」と混ぜっかえされるに決まっている。物事のレベルや了解範囲を明確にしたい私の性格は、むしろ「日本的発想」から程遠い立場にある、と思っているのだが、彼にいわせると「相変わらず、いつもジャパニーズだな」ということになる。でも、「日本人は働き続けなくてはならない!」という歴史と価値と、そして信念について語ることは、残念ながら私の役割ではない。そんなときは「オレは王子様じゃないんだヨ」と軽く返すだけでせいいっぱいだ。「博多の屋台を歩きたい」という彼の提案を何とかしりぞけて、ホテルの食事にしてもらった。脱線しはじめたらきりがないし、私たちには東京で患者さんが待っている。「クリニックは今日だけ惜りている。予定変更はできないヨ」というと、「そうか、なるほど」と彼は真面目な顔で大きくうなづいた。「ナルホドも何もないよなあ」とみんなを振り返ると、いたずら小僧のような彼のキャラクター。にスタッフも目を丸くしているばかり。これから治療を、という雰囲気ではまったくないのだが、ともあれ、にぎやかで親しみにあふれた、心から愉快な夕食のあとの「金の糸」治療となったのである。治療時間は40分程でスムーズに終了。金の糸の先に特殊な針が付いていて、肌の真皮層に入れていく。メスを使わないので身体への負担がなく、傷は残らず、アレルギー反応もほとんどない。新陳代謝も盛んになってI〜2ヶ月で肌年齢は10歳ほど若返るはずだ。翌日、「ありがとう。じゃあね、友よまた会おう」と上機嫌で去って行く彼の「わが道を行く」後ろ姿を見送りながら、……やれやれと、肩の荷を下ろした私は、こんなワガママな診療体験は一生に一度のことだろうな、とホッと胸をなでおろしかけたが、次の瞬間、すぐに自分の甘い気持ちを打ち消していた。あいつのことだ、きっと、一度あることは、二度あるかもしれないぞ!